農業者にとって害虫の被害は深刻な問題です。
また、特に多くの作物へ被害をもたらす害虫がアザミウマです。この記事では、アザミウマの中でも取り立て厄介なネギアザミウマについての情報を紹介しています。生態の特徴や効果的な農薬散布の行い方を重点的に公開していますので、農業に携わる方は特に最後まで目を通して頂けると幸いです。
正確な情報収集によって、ネギアザミウマの被害を防ぎ、健康な作物を育てましょう。
1.ネギアザミウマとは?
ネギアザミウマは、Thripsというアザミウマ目アザミウマ科の昆虫であり、ユリ科をはじめとする様々な作物に吸汁して被害を与える害虫です。
ネギアザミウマの特徴
ネギアザミウマは、1〜2mmの小さな昆虫で、黄色、黒、茶褐色の体色をしています。幼虫・成虫ともに葉の汁を吸うことで食害をおこし、色が抜けて白いかすり傷状の後を残します。
繁殖スピードは温度によって異なり、暖かいときには急速に増殖します。また、冬には成虫で越冬し、身体の色が茶色く変化します。被害としては、成長が停滞したネギや萎れたニンニクやタマネギなどが挙げられ、茎の内部にまで被害が及びます。
ネギアザミウマの発生時期と生態
ネギアザミウマは、年に2回、春と初夏(6月上旬〜中旬と8月下旬〜9月上旬)にピークを迎えます。気温が20〜25℃の環境下で増殖し、特に高温乾燥下での発生が多いため、注意が必要です。卵から成虫までのサイクルは10〜20日程度であり、成虫の寿命は50日前後です。このため、農薬に対して耐性がつきやすく、とても厄介な害虫とされています。
防除方法としては農薬の散布が一般的ですが、他のも様々な対策を取ることができます。
ネギアザミウマが引き起こす被害の種類
ネギアザミウマは、主にネギやニラなどの葉菜類に被害を与えます。被害の種類としては、葉の白化や変形に加え、成長不良、収量減少などが挙げられます。
また、ネギアザミウマは、IYSV(アイリス黄斑ウイルス)を媒介する可能性があるため、注意が必要です。ウイルスに感染したネギは、えそ条斑病を発症します。えそ条斑病が進行すると、大型病斑が生じたり、葉がねじれて枯れルことがあります。一度ウイルスを持ったネギアザミウマは、死ぬまでウイルスを保持し続けます。したがって、ネギアザミウマの食害だけでなく、ネギアザミウマが媒介するウイルスに感染するリスクにも注意が必要です。
ネギアザミウマの被害が広がる原因と対策
ネギアザミウマの被害が広がる原因は、以下の複数の要因が絡み合っています。
- 農薬の過剰使用による抵抗性を持ったネギアザミウマの増加
- 品種改良の遅れによる弱い品種の栽培
- 適切な栽培管理が行われていない(周囲の雑草の放置など)
- 気象条件の変化による生息環境の変化
このため、対策としては以下の点に注意する。
まず、農薬の過剰使用を控え、適正な使用を心がけることが大切です。
過剰な農薬の使用にも関わらず、生き残った個体は、その個々の農薬に対し抵抗性を持ちます。この抵抗性を持った個体の存在が被害を増加させる原因となっています。
また、品種改良や適切な栽培管理によって、強い品種を栽培することが重要です。強い品種は、害虫の被害に対する耐性が高く、被害を受けにくくなるため、被害の予防に繋がります。最新の情報を入手する心がけを常に持ちましょう。
さらに、定期的に周囲の雑草を除去することも効果的です。(そもそも雑草が生えやすい圃場に作物を植えない工夫をするのが良い)
気象条件により、生息状況が変化することも多いで参考にしましょう。
気温が25度と比較的高い状況なら、ネギアザミウマの繁殖が盛んであると考えられますので、対策が必要です。降雨量が多い時期であるなら、雨に打たれてネギアザミウマの行動が鈍化することが考えられます。また、雨により農薬の効果が落ちやすいことも考慮に入れて防除すると良いでしょう。
2.ネギアザミウマの防除方法
ネギアザミウマは、発生からわずか数日で大量繁殖し、食害を引き起こします。そのため、早期発見が非常に重要です。また、単一の防除方法に頼るのではなく、防除方法の多角化が必要です。
ネギアザミウマの防除には、以下の3つの方法があげられます。
生育管理
生育管理による防除とは、環境整備を行うことで、ネギアザミウマの被害を軽減することを目的とします。
環境整備としては、畝間の草刈りや除草剤による草の成長抑制が挙げられます。これにより、ネギアザミウマが繁殖する環境を減らし、被害を軽減することができます。
草刈り機の使用は有効ですが、雑草の茎や根が残っている状態では効果が薄いので、除草剤の使用が推奨されます。バスタやラウンドアップなどの除草剤を使用する場合は、作物に付着しないよう気をつけましょう。作物の根元付近の雑草に関しては、手作業で抜くことが確実です。
化学的防除
化学的防除は、ネギアザミウマに対して効果的で迅速な対策ですが、適切な使用方法に留意し、使用上の注意や定められた期間を守ることを忘れないようにしましょう。
農薬散布は、定植時、ネギアザミウマの急増期、急増期1ヶ月後、収穫1ヶ月前に防除することで、ネギアザミウマの寄生密度を低く維持することができます。
個人的な農薬のおすすめを掲載しておきます。
定植時:ベストガード粒剤
急増期:コルト顆粒水和剤&スミチオン乳剤&コテツフロアブル
収穫前:グレーシア乳剤&ディアナSC
農薬をローテーション使用することで、抵抗性を持たせることなくネギアザミウマを殺傷します。これにより省力的かつ低コストで防除が期待できます。
非科学的防除
アザミウマの防除には、天敵を活用する方法があります。ヒメハナカメムシ類やカスミカメムシ類など、アザミウマを食べる昆虫や、カブリダニ類などのアザミウマを食べるダニもいます。また、アザミウマに寄生するハチや、病気を引き起こす寄生菌も存在します。
また、アザミウマは色に反応する特性を持っており、青色や黄色に誘引されることが多いため、誘引用のトラップには青や黄色が使用されます。
さらに、防虫ネットの利用も広く使われていて、使用する際は赤色性のネット(0.8mm以下の目合い)を使用することが好ましい。理由は、赤色にはアザミウマの行動抑制を促す効果が期待されるからです。必ずアザミウマが繁殖する前に利用するようにしましょう。アザミウマが定着した後では、防虫ネットによる利用効果は期待できません。
参考;https://www.pref.kyoto.jp/byogai/documents/negi_redcolor-net_manual.pdf
3. ネギアザミウマに効果的な農薬
農薬の種類と選び方
農薬の種類は様々ですが、基本的には昔からある農薬を選ぶのが無難です。昔からある農薬は、価格競争に飲まれて、安くなっていることが多いからです。また、農場に抵抗性のあるネギアザミウマが発生してきたら、比較的新しい農薬を使用するのが、良いでしょう。値段は高くなる可能性もありますが抵抗性の観点から、比較的効果が得られやすいです。
農薬の効果と使用方法
使用方法に関しては、ローテーションで行うことが基本です。農業で生計を立てるため、金額へ目を向けることも大切ですが、効果の抵抗性に対して最も意識しましょう。1つの作物に対し、最低でも2種以上の農薬をローテーションで使用するのが基本です。
また、農薬の効果は概ね2週間程度とされていますが、それぞれの持続時間を考慮に入れつつ散布しましょう。葉ネギなど見た目で大きく品質を左右する作物に対しては、間隔を狭めて散布する意識を持つとよいでしょう。
農薬使用の注意点
上記でも述べていますが、ネギアザミウマは農薬に対して耐性を持つことが報告されており、農薬の単一使用に頼ることは避けるべきです。農薬はローテーションしながら散布しましょう。また、農薬の不適切な使用により、有害な残留物が残る可能性があります。
ネギアザミウマに対する防除に農薬を使用する場合は、以下の点に注意する必要があります。
- 複数の農薬を交互に使用することで、耐性の発生を避ける
- 農薬の使用量や使用頻度を適切に調整することで、アザミウマの出現頻度を減らす
- まずは昔からある広範囲に効き、価格の安い農薬で防除
- 効果が薄れている(耐性を持っている)と感じてから、最新の農薬の散布をおこなう
農薬のローテーションに関しては、上記に記載しているものを参考にして下さい。
まとめ
ネギアザミウマは、ネギやニラ、ニンニクなどのユリ科作物に加え、アブラナ科キク科ナス科など広範囲の作物に被害を与える害虫です。被害の程度が高い場合は収量や品質に悪影響を及ぼし、重症化すると作物全体が病気になってしまうこともあります。そのため、ネギアザミウマの防除対策は非常に重要です。
ネギアザミウマの防除には、農薬使用や天敵利用、耕作管理などがあります。農薬使用においては、有効成分や使用方法に注意することが大切です。また、耕作管理においては、残渣処理や定植時期、消毒などが重要です。さらに、天敵利用によるバイオコントロールも有効です。これらの対策を組み合わせて行うことで、ネギアザミウマの被害を抑えることができます。
情報収集の重要性も忘れてはいけません。ネギアザミウマの発生状況や防除方法などの情報を収集することで、効果的な対策を行うことができます。農業関連の団体や公的機関、農薬メーカーなどが情報を提供しているので、積極的に活用しましょう。
【重要なポイント】
- ネギアザミウマは、ネギ科作物に被害を与える害虫で、収量や品質に悪影響を及ぼすため、防除対策が重要。
- 防除対策に、農薬使用、天敵利用、耕作管理がある。農薬使用においては、有効成分や使用方法に注意することが大切。耕作管理においては、残渣処理や定植時期、消毒などが重要。
- 天敵利用によるバイオコントロールも有効。情報収集も重要で、情報を積極的に収集し、効果的な対策を行うことが大切。
ネギアザミウマに関するQ&A
Q.5-1 ネギアザミウマの対策は?
A. ネギアザミウマの対策としては、農薬を使用することや天敵の導入、環境整備などが挙げられます。農薬を使用する場合は、適切な農薬の選定や使用方法に注意し、ローテーションを行うことが重要です。また、天敵の導入によって自然的にネギアザミウマを抑制することができます。環境整備については、野菜作物の防虫ネットの使用や圃場周辺の除草などが挙げられます。
Q.5-2 ネギアザミウマ農薬のローテーションはどうしたらいい?
A. ネギアザミウマ農薬のローテーションは、同じ成分の農薬を連続して使用しないようにすることが重要です。一般的には、同じ種類の農薬を2回以上連続して使用しないようにし、複数の種類の農薬を使用することが推奨されます。これは、異なる種類の農薬を交互に使用することによって、農薬抵抗性の発生を防ぐことに繋がります。
Q.5-3 ネギアザミウマにはオルトラン粒剤が効果的だと聞きます。理由はなんですか?
A. オルトラン粒剤は、ネギアザミウマに対して効果的な成分を含んでおり、即効性があるため、急な被害に対しても有効だからです。また、「浸透移行性」で残効性も強いため長期的な効果も期待できます。しかし、使用方法には注意が必要で、他の農薬同様、単体での使用は抵抗性を持つ個体を発生させる原因になります。農薬ローテーションのひとつとして組み込み、使用するとよいでしょう。